
― 妻株式会社 家庭事業部 配属報告書 ―
本日をもちまして、私は「妻株式会社 家庭事業部」に正式入社した。
入籍という名の契約行為をもって、独立自営業(自由人)から“雇われ亭主”へと転職である。
転職理由?愛。つまり、理屈の通じないやつだ。
朝6時。目覚ましが鳴る。いや、正確には「妻の咳払い」が鳴る。
一瞬で覚醒。初出社から遅刻は許されない。
この会社、無断欠勤=離婚予告状レベルのペナルティがある。
午前の業務は外勤。
人夫として運送会社に派遣され、家計の売上を確保する。
取引先(お客さん)からの感謝より、頭に浮かぶのは“今日の夕飯なんやろな”という内部メッセージ。
帰宅ラッシュより早く、脳内は「帰社ラッシュ」。
18時、帰宅。正しくは「社に戻る」。
シャワーで汗を流した瞬間、背後から「残業入ります」と社長(妻)の指示。
業務内容:食器洗い、洗濯物干し、翌日の炊飯、ゴミ出し準備。
さらに「子どもたちとのふれあい」という感情労働も発生。
途中、妻社長から厳しいレビュー。
「洗濯のたたみ方、角が甘いですね」
はい、社訓に“角を立てずに家庭を丸く”とあるのに、物理的には丸めちゃダメらしい。
22時、最終ミーティング。明日の献立会議。
社長の意見は常に正解。社員(俺)は常に頷くロボット。
会議が終わるころ、時計は0時。
そこから風呂。退勤は1時。実働19時間。誰がこんなブラック企業に入った。
……俺だ。
それでも、この会社には妙な福利厚生がある。
妻の笑顔。子どもの寝顔。これがある限り、どれだけ残業しても不思議と赤字にならない。
雇われ亭主の初日は、「愛と理不尽の両立訓練」である。
なお、初任給および経費の詳細については、別途 『給与明細編』 にて報告予定。
――次回、「妻株式会社の衝撃の賃金制度」。
期待せず、お待ちください。
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