
毎日、妻(社長)の美味しい手料理をいただいている。
仕事を終えて帰宅すると、リビングにはいつもの香ばしい匂いが漂っている。
「今日の晩ご飯は何やろう」なんて考えながら手を洗っていると、キッチンから妻の声が飛んできた。
「明日のおかずができたから、ちょっと味見してみて」
その言い方が、いつもより少しだけ自信なさげだった。
鍋のふたを開けると、ふわっと湯気と一緒に優しい匂いが立ちのぼる。
「〇〇ちゃん(妻の名前)が作る料理はいつも美味しいから大丈夫やろ?」
と何気なく返したら、妻はふっと笑ってこう言った。
「だってあなたのご飯は“賄い”やからな」
「……まかない?どういうこと?」
思わず聞き返すと、妻はおたまを置いて、あっけらかんと答えた。
「あなたが食べてるのは、子どもたちが残したやつとか、余り物をちょっとアレンジした“まかない”だよ。」
えっ、俺の夕飯って社員食堂方式やったん!?
一瞬、頭の中に“妻株式会社 家庭事業部”の看板が浮かんだ。
社長(妻)が仕入れ・調理・品質管理を一手に担い、俺はその会社に“住み込みで働く従業員”。
しかも食事付き——いや、“賄い付き”の契約らしい。
思えば、食卓に並ぶメニューもそれっぽい。
少し形の崩れたハンバーグ、端っこが焦げた卵焼き、そして「これ味見してみて」と渡された小皿の新作。
どれも味は最高やけど、どこか試作品感がある。
なるほど、これが“社内試食係”というポジションか。
とはいえ、妻の料理はどんな余り物でも驚くほど美味しい。
子どもたちが残したご飯も、彼女の手にかかれば立派な一品に変わる。
まさに“愛情スパイス”の魔法である。
「これ、もしかして冷蔵庫の奥にあったやつ?」と聞くと、妻は笑いながら「正解」と言った。
まるで社長の“在庫管理の腕”を褒められたような誇らしさを感じてしまう自分がいる。
それにしても、“賄い付き住み込み生活”って、なんか字面だけ見ると聞こえは悪くない。
三食付き、居住費ゼロ、福利厚生に「家族の笑顔」までついてくる。
ただし、勤務時間はほぼ24時間。休日は応相談。
それでも辞められないのは、ここが“家庭”という会社だからだ。
なるほど、そういう意味の“賄い付き”か。
今日も妻社長の手による、余りものの愛情たっぷり賄いをいただきながら、雇われ亭主の一日は静かに更けていく。
【次回予告】
雇われ亭主シリーズ、次なる監査の舞台は──わずか3円の誤差。
「3円くらいええやん…」
その一言が、火に油を注ぐ結果となる。
妻社長による徹底監査が始まり、家計簿はまるで警察ドラマの取調室に。
レシート一枚、コイン一枚にまで及ぶ尋問の行方は…!?
次回、『家計簿3円の謎。妻社長による徹底監査の記録』
――真実は、財布の中にある。
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